戦国時代

主の罪は臣下よりもなお重い─黒田官兵衛

黒田くろだ官兵衛かんべえは、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した軍師であり、豊臣秀吉の天下統一に大きく貢献した智将です。

播磨国(現在の兵庫県)出身で、本名は黒田孝高よしたか。軍略のみならず、人材登用や組織運営にも優れ、冷静な判断力と先見性を持つ人物として知られています。

その官兵衛が残したとされる名言の一つが、次の言葉です。

その職にふさわしくない者はすぐに処分したりするが、よく考えてみると、その役を十分に務めてくれるだろうと見たのはその主だ。目利き違いなのだから、主の罪は臣下よりもなお重い。

この言葉は、組織運営における責任の所在を鋭く突いたものです。

部下が職責を果たせないとき、多くの人はその失敗した者を非難します。

しかし官兵衛は、そもそもその人材を見出して任命したのは上に立つ者であり、その目利きが誤っていたのなら、その責任は部下以上に上司、すなわち「主」にあると説いています。

戦国時代においては、職務不履行が命に関わる重大な結果を招くこともあり、官兵衛の言葉はそうした厳しい現実を背景にしているとは言え、現代社会においても、この言葉は深い意味を持ちます。

企業や行政など、あらゆる組織ではリーダーが部下を任用し、チームを構成します。

しかし成果が上がらなかったとき、しばしば現場や末端の個人に責任が押しつけられがちですが、本来、その人をその地位に置いた人間の判断も大いに問われるべきです。

人を使うというのは単なる命令ではなく、適切な配置と育成が伴って初めて機能するものだからです。

この言葉は、上に立つ者にとっての「覚悟」と「謙虚さ」を求めるものでもあります。

責任を部下に転嫁するのではなく、自らの選択や判断を振り返り、誤りがあれば認め、修正していく姿勢こそが、真に信頼されるリーダーの条件だといえるでしょう。

黒田官兵衛のこの言葉は、時代を超えて現代の組織やリーダーシップにも深い示唆を与えています。

人を裁く前に、自らの判断を省みる──その姿勢が、より良い組織と信頼関係を築く礎になるのです。

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