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足利義政の和歌
和歌
やがてはや国おさまりて民安く養ふ寺も立ちぞ帰らん
さまざまの事にふれつつ歎くぞよ道さだかにも治めえぬ身を
はかなくもなほ治まれと思ふかなかく乱れたる世をば厭はで
きかばやな高野の寺のかねて思ふその暁は遥かなれども
まてしばし萩刈るをのこ一枝を折るだに惜しき岡のべの秋
照りもせず曇らぬよりも秋の月さやけき影ぞしく物もなき
いにしへも思ひ残さず山かげに夜の雨きく草の庵かな
曇りなき影を明けぬとすむ月の雪や払はむとものみやつこ
我が庵は月まつ山の麓にて傾く空の影をしぞ思ふ
埋木の朽ちはつべきは残りゐて若枝の花のちるぞ悲しき
長岡や落穂ひろひしあととめて春は田づらに若菜をぞ摘む
ちりかかる花の鏡の山桜ささ波くもる春風ぞふく
あはれ身の盛りにかへる春もがな散りにし花ぞ又も咲きける
身にはまた近き衛りに袖ふれしをり忘られぬ軒の橘
ながめわぶる夕べは山の奥もなし秋にうき身の隠家もがな
なく虫のさせもが露や寒からし枕の壁に声のうらむる
日影さす庭の草葉はかつとけて霜の花にも露はおきけり
みなかみはなほ流れけり谷川の氷のうへをこゆる白浪
山かげや暁いづる炭車こほりに軋る音の寒けさ
あひそふる親の守りもなき身には関もる人も哀れとを見よ
賤の男が薪を老の坂こえてかへる山路はさぞな苦しき
法の道迷ふべしやは二つなく三つなきのみか一つだになし
春きぬとふりさけみれば天の原あかねさし出づる光霞めり
ふりかかる梢の雪に打羽ぶきなく鶯の声ぞ寒けし
折ふしもあはれぞそふる梅匂ふ竹のあみ戸の明方の空
かつ萌えし草のかたちのおのづから色わく程の春の雨かな
老いにけり雪を戴き神なみの河波ちかくたてる柳は
神代より霞わたれる春の色を思ふも遠し天の香具山
さきにほふ花の都の夜半の月色も光もあかぬ春かな
旅衣うすき袂になりにけりふるさと人も今日や更ふらむ
植ゑわたすあとより絶ゆる小山田の水の緑をとる早苗かな
山どりの尾上はれせぬ五月雨の長々しくもふる日数かな
ふもとにはふりさけ見ぬる嶺ならめわくる山路の松の一むら
秋風や立つ八重雲を払ふらし月さやかかる天の関山
ことくさは皆うら枯れて紫の一もと菊ぞ匂ひ残れる
すぎし三年花に迷ひし山道を又木の葉にもたどりつるかな
ふり埋む軒端の竹はをれふして雪に晴れたる窓の内かな
片しきの衣手さむみめもあはず閨の板間に霰ふる夜ぞ
くやしくぞすぎし浮世を今日ぞ思ふ心くまなき月を眺めて
柏木の蔭しめはへてここにしもすむや葉守の神なみの杜
わが思ひ神さぶるまでつつみこしそのかひなくて老いにけるかな
こぎ別れゆけば悲しき志賀の浦や我が故郷にあらぬ都も
憂き世ぞとなべて云へども治め得ぬ我が身ひとつにただ嘆くかな
何事も夢まぼろしと思ひ知る身には憂ひも喜びもなし(辞世の句)