戦国時代

伊達政宗「五常訓」の意味

伊達政宗「五常訓」の意味

伊達政宗

和歌や茶道など教養も深く、文武両道を極めた武将である伊達政宗。幼少期の病が原因で片目が失明し、瘢痕が残ったことから、“独眼竜”という異名を持っていることでも知られています。

その伊達政宗が大切にしていた座右の銘として、しばしば取り上げられる訓戒に、「五常訓」があります。

五常訓は、儒教の「五徳」(仁、義、礼、智、信)に基づいたものですが、それぞれ重要である一方で、し過ぎれば、かえって逆効果になるということを謳った言葉で、その戒めは、現代でも通じる要素が大いにあると言えるでしょう。

伊達政宗の「五常訓」は、以下の5つになります。

仁に過れば弱くなる。
義に過れば固くなる。
礼に過ればへつらいとなる。
智に過れば嘘をつく。
信に過れば損をする。

それぞれ解釈も交えながら、一つずつの意味を分かりやすく解説したいと思います。

仁に過ぎれば弱くなる、というのは、他人を思いやり、優しくするということは大事なことである一方で、優しくし過ぎれば、相手のためにはならないし、言うべきことを言えなくもなる。優しさというのも、やり過ぎれば自分も相手も弱くなる、といった意味になります。「優しさ」とは一体何か、ということも問いかけてくる一文です。

義に過ぎれば固くなる、というのは、自分の正義や筋を貫き通そうとしすぎると、柔軟性がなくなり、融通が利かなくなる、という意味です。自分の正しさに頑なになり、人の意見に耳を傾けずにいることによって固くなり、身動きが取れなくなる、ということにも繋がります。ときには柔軟性も必要でしょう。

礼に過ぎればへつらいになる、というのは、礼儀正しさを重んじすぎるあまり、相手に媚びへつらっているように見え、また、度が過ぎれば嫌味やお世辞のようにも捉えかねられず、逆に信頼関係を築くことができなくなる、といった意味になります。ひたすらおだてたり、単なる太鼓持ちは、相手を尊重しているとは言えないかもしれません。

智に過ぎれば嘘をつく、というのは、頭でっかちになったり、なまじ知に偏りすぎると、机上の空論や浅知恵によって、嘘をつくことになったり、策に溺れることになる、といった意味です。

信に過ぎれば損をする、というのは、他人を信じすぎると、損をすることがあるという意味です。他人を信じることは大切かもしれませんが、なんでもかんでも信じることで、振り回されて自分だけでなく自分の周りにも迷惑をかけたり、自分自身で考えるということを放棄してしまうことにも繋がりかねないでしょう。

以上が、伊達政宗の五常訓です。

五常訓の元になっている五徳はどれも大切なことですが、行き過ぎれば問題もあり、そのバランスが大事なのだ、ということが説かれた教訓と言えるでしょう。

また、この伊達政宗の五常訓が記された「貞山政宗公遺訓」には、「この世に客に来たと思えば何の苦もなし」という一節も書かれた続きがあります。

仁に過ぎれば弱くなる。
義に過ぎれば固くなる。
礼に過ぎれば諂いとなる。
智に過ぎれば嘘をつく。
信に過ぎれば損をする。

気長く心穏かにして、よろずに倹約を用て金銭を備ふべし。
倹約の仕方は不自由を忍ぶにあり。
この世に客に来たと思えば何の苦もなし。
朝夕の食事うまからずともほめて食うべし。
元来客の身なれば好嫌は申されまじ。
今日の行をおくり、子孫兄弟によく挨拶をして、娑婆の御暇申すがよし。

出典 : 貞山政宗公遺訓

全文をざっくりと現代語訳すると、以下の通りになります。

優しさも過ぎれば弱くなる。
正しさを通そうとし過ぎれば考えが固くなる。
相手を尊重しようとする気持ちが強過ぎれば媚になる。
知に偏りすぎれば嘘つきになる。
人を信じるばかりでは損をする。

気を長くし、穏やかな気持ちで倹約し、蓄えをすることだ。倹約とは、不自由を我慢することだ。自分は、この世に来た客と考えれば辛くもない。食べ物がまずくても褒めて食え。そもそもが客なのだから好き嫌いを言わないこと。過ぎ行く一日を大切にし、身内によく感謝の挨拶をし、この世に別れを告げるがよい。

この五常訓の続きに出てくる、「この世に客に来たと思えば何の苦もなし」も、伊達政宗の名言として取り上げられることの多い言葉です。

客だからじっと耐えろ、というと、現代ではちょっと馴染まない考え方かもしれませんが、この人生というのは、客としてふらっと立ち寄った世界だ、と捉えると、生きていることが、よい意味で軽くなるかもしれません。

そして、そのつかのまの世界で出会ったものや人々に感謝をし、御暇おいとまする。そんな風に考えると、ほどよく人生が軽くも尊くもあるのではないでしょうか。

ちなみに、歴史上の偉人の名言として伝わっている言葉ではときおり見られますが、五常訓も、実際に伊達政宗が作ったという根拠はないようです。

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